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DIARY

映画会社再生

View from the dressing room in Yokohama

放送中の「ハル〜総合商社の女〜」は明日第4話の放送を迎えます。

この度は、藤木直人さん演じる元夫であり五木商事経営企画部の部長和田が学生時代に情熱を傾けた映画に再び向き合い、系列の映画会社の立て直しに奔走します。
本来ならハルをはじめとする部下たちに任せるところですが、今回ばかりはじっとしていられず、自ら能動的に動き回るのです。

映画は夢のある仕事であり、映画を愛する人々の熱意と善意によって成り立っているような世界ではありますが、その一方で、実際に携わってみると、とてもシビアな世界でもあります。
良質な作品と万人に愛される作品を両立させることは至難の業でして、商業映画である以上、興行成績の善し悪しによって会社が繁栄する可能性もある一方で存続が危ぶまれることも多々ある博打のような世界です。
その栄枯盛衰は、映画に携わるプロデューサーや監督、俳優にとっても同様で、安住の地などどこにもありません。
それでも好きだからこそ映画に携わる人々がどこからともなく集まってくるという不思議な世界なのです。

満島真之介さん演じる情熱を失いかけた若手プロデューサーを鼓舞し、宮川一朗太さん演じる商社から出向した数字にしか興味のない社長を説得し、淵上泰史さん演じるIT長者からの出資を引き出そうと熱弁を振るう和田部長はいつになく情熱的で、少年のようですらあります。

また、その傍らでハルの愛する息子涼と、和田部長との初めての食事会も催され、和田の心も涼の心も大きく揺れ動きます。

男のロマンをかけた映画会社の立て直しを、ぜひ見守っていただけましたら嬉しいです。
「ハル〜総合商社の女〜」第4話は11日22:00よりテレビ東京にて放送です。

敵対的買収

Tires for special motor ehicles

今夜放送の「ハル〜総合商社の女〜」第3話は、ハルの勤務する五木商事の関連会社が敵対的買収のターゲットになり、対策を命じられた経営企画部が右往左往することになります。

社員250名を擁し、リニアトレインや農業用の重機などの特殊タイヤを扱う西本工業を救うために、ハルの所属する経営企画部員はもちろんのこと、長谷川朝晴さんや松澤一之さんをはじめとする西本工業の研究開発部の人々も一念発起して新規事業に取り組むのです。
部下の青柳や川上と共に足繁く工場に赴き、自らの命運をかけて新商品開発に心血を注ぐ研究開発部の人々といつしか心通わせ、皆でひとつのゴールに向かって奮闘する場面は、私自身も心躍りました。

また、藤木直人さん演じる元夫と、寺田心くん演じる息子の涼の10年ぶりの再会もせつなく、もどかしく、ハルを含む3人の関係が今後どのように変化していくのか気になる展開となっております。

一方舞台裏では、経営企画部の守旧派代表とも言える藤尾を演じて下さっている山中崇さんがカレーマイスターであることが発覚し、ホールスパイスを用いた本格的なインドカレーを得意となさるとのこと、わがままを言ってスタッフ、キャスト全員分のカレーを振る舞っていただくことになりました。
ハルの腹心の部下青柳を演じる白洲迅さん、コネ入社の生産性ゼロ社員である一乗寺を演じる忍成修吾さん、日和見主義で噂好のき川上を演じる加治将樹さん、藤尾に次ぐ保守派矢島を演じる渡辺邦斗さんも加わって、4時間以上かけて完成したキーマカレーとレンズ豆のスープは、旨みと辛みと香りが見事に調和した絶品でした。
実は、かつてのインド旅行にて朝昼晩カレーという日々を過ごし、一生分のインドカレーを食べ尽くしてしまったため、日本風のカレーは依然として大好きなものの、インドカレーは苦手となっていたのですが、山中さん秘伝のレシピによって、再びインドカレーの美味しさに目覚めてしましました。

「ハル〜総合商社の女〜」第3話はテレビ東京にて今夜22:00より放送です。
ぜひご覧下さいませ。

病院買収計画

A barbershop on the street in India

今夜22:00より「ハル〜総合商社の女〜」の2話が放送されます。
医療ビジネスの分野に新たな活路を見出そうとする五木商事は、シンガポールの病院グループを買収するべく、
私が演じますハルが所属する経営企画部に案件の精査を命じます。

いつものごとくそのバイタリティーで巨額の予算が動く案件に着手したハルは、元夫であり経営企画部の部長である和田の助言により、寺田農さん演じるとある医療法人の会長を口説きにかかります。
これがなかなかの御仁でして、アポイントメントを取ることすらままならないのは当然ですが、お目にかかれたとて、そう簡単には首を縦に振ってはくれる相手ではないのです。
桐山漣さん演じるシンガポール支社の駐在員と知恵を出し合い、頑なな会長の心を解きほぐすべく、あの手この手で
迫ります。

その一方で、シンガポールへの出張を自ら提案しておきながら、寺田心くん演じる息子が熱を出してしまい、フライトをキャンセルせざるを得ない状況に。
働く母親の心配事は絶えませんが、それでも在宅にてシンガポール出張と同じだけの成果を出してみせると宣言するハルの情熱は健在です。

寺田農さんからは、三船敏郎さんが映画「レッドサン」に出演された折に、アラン・ドロンを嫉妬させるほどだったというエピソードや、相米慎二監督が女優さんにかける言葉が「ボケ、タコ、クズ」だけだったなどという貴重なお話しを伺い、充実した日々でした。
相米監督曰く、「男優は心が弱いけれど、女優は強いから」だそうで、あまりの厳しい指導に「相米死ね〜!」と裏で絶叫していた女優さんたちが皆さん素晴らしい演技をフィルムに刻んでいらしたとのこと、今では問題になりかねませんが、そんな偏屈で情熱的な監督だからこそ撮れた作品の数々だったのでしょう。

また、三谷幸喜さん演出の舞台「ロストインヨンカーズ」にて兄役を演じて下さった小林隆さんが、真摯で控えめ、かつ懐の深い秘書役を演じて下さり、久々の共演が叶ったことが幸せでした。

「ハル〜総合商社の女〜」は、今夜22:00よりテレビ東京にて放送です。
ぜひご視聴くださいませ。

ハル〜総合商社の女〜

The Stelvio Pass in Italy


新たな連続ドラマ「ハル〜総合商社の女〜」が今夜から始まります。

以前「恋愛偏差値」というドラマでお世話になったプロデューサーの栗原美和子さんがご自身の体験をもとに企画なさったオリジナルドラマで、総合商社を舞台に私の演じるシングルマザーでニューヨーク帰りの主人公海原晴が危ない橋を堂々と渡りながら、立身出世のために事なかれ主義、日和見主義に陥り、常に上層部におもねるばかりで革新的なことを恐れていた人々を巻き込んで行く物語です。

ヘッドハンティングによって日本に呼び寄せられたハルが着任したのは、精鋭部隊が集められた「経営企画部」です。それは、ジャンルを超えてあらゆる案件に介入し、不採算部門を立て直したり、事業縮小計画を実行したり、新たな事業計画を提案したり、実現したりする部署でして、なんとそこでは藤木直人さん演じる元夫の和田が部長として指揮を執っており、ハルは部長補佐として和田の直属の部下となったのでした。元夫ということは寺田心くん演じる息子涼の父親でもあるわけで、職場において仕事とプライベートを使い分けながらのコミュニケーションも見所となっております。

停滞した空気を打ち破り、根回しすらなしに本音で勝負するハルに心動かされ、くすぶっていた情熱を取り戻して行く部下青柳を演じるのは白洲迅さんで、社長と対立する立場にあり、社内に蔓延する事なかれ主義を牽引している副社長兼、経営企画部本部長を奥田瑛二さんが演じて下さっています。

経営企画部のレギュラー陣の方々、そして、毎回新たな案件に携わる度にご出演くださるゲストの方々も皆さん魅力的で、初回は田口浩正さんと田中要次さんが業績不振となったラーメンチェーンの復活を目指して奮闘してくださっています。

無理難題にこそやりがいを感じ、愚痴を漏らす暇があったら目の前の課題をどんどんこなしていくハルの台詞は、演じている私の心も前向きにさせてくれます。
今でもチャレンジングなことは大好きですが、もっともっと怖いもの知らずで、失うことを恐れなかった若かりし頃を思い出して懐かしい気持ちになったりもしております。

もちろん、ハルのように男性にも目上の人間にも堂々と正論を述べ、暗黙の了解で成り立っていることにもわざわざ波風を立ててなお前に進むことができるのは、ごく一握りの優秀な人々か、向こう見ずの大馬鹿者くらいで、多くの方々は本音と建て前を上手に使い分け、家族を守るため、あるいは自らの日常をつつがなく営むために、本心を押し殺して会社に従属し、日々を生きることに精一杯なのではないでしょうか。あるいは、仕事の時間を減らし、物質的豊かさよりも自由と心の充足を求める方もいらっしゃるでしょう。そうした方々を決して置き去りにせず、会社の歯車として働かざるを得ない方々にも温かい眼差しを向けていることが、この作品の素敵なところです。

「ハル〜総合商社の女〜」は、明日10月21日より、毎週月曜日よる10:00TV東京にて放送です。
ぜひご覧いただけましたら、嬉しいです。

お見舞い

The meadow garden designed by Piet Oudolf at Potters field in London

先の台風19号にて被災なさった方々に謹んでお見舞い申し上げます。
痛ましい大惨事が起こる度に気候変動への危機感を募らせておりますが、
この度の災害により苦難の時を過ごしている皆様が一日も早く平穏な日常を取り戻すことができますよう、心よりお祈りいたしております。

ハダカラ

Non suger sesami cheesecake made by M.K

保湿成分が洗い流されない画期的なボディーソープ「hadakara」の新たなCMが始まります。
洗うという行為によって、皮膚の油分や水分が奪われ、カサカサになったお肌はかゆみを伴うこともあるかと思われますが、hadakaraはそのような心配を拭い去ってくれる心強い味方です。

この度のCMでは、前回と同様に、芦田愛菜さん演じる生徒と教師との密かな心の交流が描かれ、私が演じます教師が人知れず使用しているボディーソープについてそっと語り合うのです。

レギュラータイプに加えて、泡で出てくるタイプや、さらさらタイプなど、テクスチャーや香りも様々に、時間にゆとりのない方でもバスタイムを充実させていただくべく、創意工夫がなされています。

かく言う私もボディーケアに時間をかけるようなゆとりはなく、このところは毎朝5時に飛び起きて、慌ただしくシャワーを浴びてドラマの撮影に出かける日々を送っており、帰宅後の入浴はリラックスタイムというよりは、台本を読む時間も兼ねておりまして、洗うだけでボディーケアを同時にできるhadakaraが手放せません。

新たにシトラスカシスの香りも仲間入りしたライオンのhadakaraを、毎日のバスタイムのお供にしていただけましたら幸いです。

あの家に暮らす四人の女

Embroidery stitched by Wakako Horai

三浦しをんさん原作のスペシャルドラマ「あの家に暮らす四人の女」にて、古い洋館を舞台に母鶴代と友人の雪乃、そして雪乃の同僚の多恵美と風変わりな同居を続ける主人公の刺繍作家、牧田佐知を演じました。

かつてドラマ「模倣犯」でもお世話になったプロデューサーの中川順平さん、黒澤淳さん、雫石瑞穂さんよりお声がけ頂き、深川栄洋監督の描くおとぎ話のようにノスタルジックでありながら、滑稽でリアルな人間模様が垣間見える世界の住人として、一針入魂の日々を送りました。

そもそもマフラーですら10㎝以上編めたことがないほど移り気な質でして、手先は比較的器用な方だ自負しておりますが、お裁縫や手芸の類いは苦手と申しますか、コツコツと地道に手仕事をするというこらえ性が全く備わっておりません。だからこそ、染織家や器の作家、そして刺繍作家など、美しいものをこの世に送り出すために手を動かし、時間を費やす方々を尊敬して止まないのです。

この度も、京都にお住まいの刺繍作家蓬莱和歌子さんの手ほどきを受け、一針一針垂直に刺すという作業を練習したのですが、想い描く完成図に仕上がるまでのもどかしさに身もだえしておりました。
蓬莱和歌子さんの刺繍の美しさはその構図やステッチの美しさは言うまでもなく、刺繍を施す布や糸の色の選択が秀逸で、大人の女性に相応しいスモーキーで柔らかな色調が特徴です。

さて、肝心のドラマですが、この度も素晴らしい共演者に恵まれました。
武蔵野のお嬢様とも言える世間知らずで身勝手な母鶴代を稀代のコメディエンヌ宮本信子さんが軽妙かつ繊細に演じて下さり、恋や愛などという幻想を捨て去り、ひたすら会社と洋館との往復に励み、ヨガに心の安寧を見出す友人雪乃を永作博美さんがクールに、そしてコミカルに演じて下さいました。そして、雪乃の同僚でストーカー化したダメ男から逃れるために転がり込んできた多恵美をチャーミングに演じて下さったのは吉岡里帆さんでした。
主人公の佐知が産まれる前から同じ敷地内の離れに暮らしている昔気質の作男を、舞踏で世界中を魅了する田中泯さんが無骨に演じて下さり、恋もおしゃれも放棄して刺繍の締め切りに追われる佐知が想いを寄せる内装工事の職人役を要潤さんが真っ直ぐに演じて下さいました。

撮影中にも皆さんのお芝居がそれぞれ素晴らしく、小気味よい台詞とリアクションに観客になったような気持ちで見入っておりましたが、深川監督の編集を介した完成作品を観ると、想像以上に愉快でバカバカしく、それでいて心温まる物語となっており、自分が出演しているにもかかわらず心底楽しめました。

原作では「恋というのは、理解ではなく勝手な思い込みのことですよ。愛というのは、思い込みが打ち砕かれたあと、理解し合えぬ相手とそれでも関係を持続する根性と諦めのことですよ」という雪乃の台詞が印象的でしたが、それでも佐知は「私はやっぱり、理解しあいたい。男のひとにかぎったことじゃないけれど」と夢を抱いています。
「夜が長いからこそ、光を、理解を、愛を、飽かずもとめることができるのかもしれない。だとしたら、ひとはさびしく愛おしい魂を抱えた生き物だ」とも、続く地の文にて述べられています。

先進国の多くでは家父長制などという古い形は忘れ去られつつあり、家族の形が多様性を帯びていることは誰もが知るところかと思います。
4人の女たち+老人の奇妙な共同生活も、ある意味では家族のようなものだと言えるでしょう。
いずれも何かが欠けたおかしな面々が集う大人のためのファンタジー「あの家に暮らす4人の女」を秋の夜長のお供にしていただけましたら幸いです。

ドラマスペシャル「あの家に暮らす四人の女」は、9月30日月曜日夜9:00テレビ東京にて放送です。

初秋

A day on the mountain

この2ヶ月間、ザルツブルクにて自然に親しみ、音楽に耳を傾ける日々でした。

ご存知かもしれませんが、この界隈は湖水地方と言われておりまして、アルプスの山々に囲まれたこの地には底まで透けて見えるほど美しい湖がいくつも点在しています。風のない朝には、一寸法師のようにサップボードに乗って湖面をスイスイと進んでみたり、雨上がりには山歩きをする道すがら苔やシダを眺めてみたり、曇りの日には草むしりに励み、快晴の午後には日陰にて来たるドラマの撮影のための台本を読んだり、このところ最も頭を抱えているドイツ語の勉強に勤しんだり………。

挑戦しつづける人生でありたいと、40歳を越えて自動車免許を取得したり、こちらオーストリアでの暮らしを始めたものの、この年齢で新たな言語を学ぶことは、やはりそう簡単には参りませんで、四苦八苦しております。
「こんな複雑な文法をドイツ語に組み込んだ首謀者はどなた様?」と恨み節を言いたくなるほど難しく、脳味噌がオーバーヒートしそうになっては、テキストを見て見ぬふりをして数日間過ごしたりしているのです。

絶妙な塩梅のイクラや、オーガニックの海老を取り扱うお魚屋さんに、熟成肉を扱うお肉屋さん、希少なシュタインピルツというキノコがお目見えする市場、羊のフレッシュチーズを販売する牧場、古代小麦エンマーやスペルトを扱う製粉所など、安全で美味しい食材を求めての買い物は、ザルツブルクの端から端までドライブする必要があり、これにオーガニックのココナツヨーグルトや豆乳などの買い出しを加えると一日がかりの仕事になりますが、朝のフルーツも、お昼の軽食も、午後のお茶も、夕食も、屋外で山の澄んだ空気と共にいただくと買い物の煩雑さなど忘れてしまいます。

日々の暮らしを営むだけで、瞬く間に時間は過ぎて行きますが、その一方で旧市街地の祝祭大劇場にて行われている世界最高峰とも言われる音楽と演劇の祭典「ザルツブルク音楽祭」も欠かせません。

ダニエル・バレンボイムの指揮によるマーラーの「交響曲5番」や、大好きなソプラノ歌手アスミック・グレゴリアンの歌うショスタコーヴィチの「交響曲14番」など、ウィーンフィルの滑らかな調べに耳を澄ませたかと思えば、本日は主席指揮者にキリル・ペトレンコを迎えた新体制のベルリンフィルと異色のヴァイオリニスト、パトリシア・コパチンスカヤによるシェーンベルクの「ヴァイオリン協奏曲」に、チャイコフスキーの「交響曲5番」のリハーサルをこっそり拝聴して参りました。

言わずと知れたマーラーの5番やチャイコフスキーの5番は美しく耳障りの良い音楽ですが、ショスタコーヴィチの14番とシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲は少々難解でした。
しかし、調性を排した難しい音楽も、演奏者が音楽に没入し、身体に染みこんだ音とリズムを自らの言葉を語るかのように放ってくれると、聴いているこちら側まで、まるでその難解な音楽を理解したような気になれるほど楽しめるものなのですね。
私は音楽家ではないので、詳細はよくわかりませんが、まさにアスミック・グレゴリアンとパトリシア・コパチンスカヤには、近現代の音楽を理解する卓越した感性と、それを表現するだけの技術が備わっており、音楽の語る情景が見えていたらこそ、こちらにもその情景が自ずと伝わって来たのでしょう。
もちろんソリストを陰に日向に支えるオーケストラの演奏もそれぞれ素晴らしいものでした。

演じる際にも情景を伝えられる人間でありたいと、改めて心に誓った次第です。

間もなく始まるドラマ「ハル〜総合商社の女」の撮影に向けて、こうして心に栄養を注ぐ日々を終え、そろそろ日本へ帰る予定です。
初秋とは言え、まだまだ耐え難き暑さが続くこの頃にて、皆様どうぞお身体に障りませんように。

フランス映画祭横浜2019

Plaque commémorative Henri Jean Pilot in Paris

フランス映画祭横浜2019が昨夜開幕となりました。

この度、フェスティバルミューズというお役目を仰せつかりまして、横浜みなとみらいホールにて開催されたオープニングセレモニーにて、フランスからおいでになったミッシェル・オスロー監督や、ニルス・タヴェルニエ監督、ジル・ルルーシュ監督などをお出迎えする幸運に恵まれました。
残念ながら「男と女」や「愛と悲しみのボレロ」、「白い恋人たち」などで世界中にその名を轟かせたクロード・ルルーシュ監督は一日遅れでのご到着とのこと、お目文字は叶いませんでしたが、熱狂的なフランス映画ファンの皆様とご一緒に、憧れのフランス映画に浸る幸せを分かち合うことができました。

まだ迷い多き10代の頃、わけもない苛立ちを静め、溢れる探究心を満たし、言葉にできないもどかしい想いを代弁してくれたのがフランス映画の数々でした。
フランス映画を上映するミニ・シアターが健在で、一日に何館もはしごしては、胸をえぐられるような愛の物語に呆然としたり、官能的な作品にドキドキしたり、社会を風刺する痛烈なユーモアに笑い転げたり、難解で冗長な作品でうたた寝をしたくせに、わかったような顔をして映画館を後にするような青春でした。

フランス映画に憧れるあまり、一時期はレオス・カラックス監督の「ポンヌフの恋人」の舞台ともなったポンヌフ橋の左岸に位置するレンガ造りのアパートにて、Chamble de bonne と言われる住み込みの家政婦さんのための小さな屋根裏部屋を借りて東京との往復を繰り返していたほどです。
シャワーもバスルームも共同のその部屋を借りた当初、冷蔵庫もなかったほどなのですが、卵や日本から持ち込んだ明太子などを窓の外に吊して、天然の冷蔵庫などと言って何もない暮らしを楽しんでいました。
もっとも、共用部の掃除をする度にはばかりもなく汚す住人達に耐えきれず、しばらくしてサン・シュルピス通りのアパートに移ることにはなりましたが。

映画館が密集する6区に住まい、Le champo やGrand Action,L’Arlequin,MK2といった映画館を徒歩で訪れることが、東京で休む間もなく働き、常に燃え尽きていた私の心身を取り戻す大切な時間でした。

この度も、美しいシネマトグラフと、辛口のユーモア、弱者への温かい眼差しに満ちた素晴らしい作品の数々が一挙上映となりますので、ぜひ横浜の街でフランス映画に耽溺する喜びを味わっていただけましたら幸いです。

フランス映画祭横浜2019は6月23日まで。

Mark Rothko

Mark Rothko exhibition at Kunsthistorisches Museum in Vienna

新たな時代の幕開けとともに長いお休みを堪能なさった方々、あるいは変わらずお仕事や勉学に邁進なさった方々、様々いらっしゃることでしょう。
ゴールデンウイークにお休みをいただけることなど、ここ数年はなかったのですが、「Followers」の撮影中にもかかわらず、久々に暦通りの長いお休みをいただくことが叶い、しばしウィーンへ戻っておりました。

ハプスブルク家とモーツアルトをはじめとする名だたる作曲家たちの残した遺産によって未だ観光地としての魅力が絶えない彼の地では、何か特別なことをせずともただ街歩きをしているだけで、時間を有意義に過ごすことができます。
東京の人口約930万人と比較しても、オーストリア全体の人口が約880万人と、いかに小さな国であるか驚かされるのですが、そんな小さな国の首都ウイーンは、音楽に美術、建築、文学、精神医学や心理学(あのフロイトもアドラーもウイーンの出身です)などの文化が豊かに花開いた街でもあります。

この度は、歴史あるコンツェルトハウスにてウィーンフィルの演奏によるマーラーの交響曲8番を聴く機会に恵まれ、合唱団と8名もの独唱者を加えて200名以上(1000人のシンフォニーとの呼び名もあるほど)がステージで共に音楽を奏でる壮大な名曲に心を震わせました。

また、サマータイムにて夜の8時でもまだ明るいこの頃では、夕食後に街歩きをすることも珍しくなく、ホロコーストの生存者のポートレート写真が並べられたリング通りを歩きながら、フランツ・ヨーゼフ1世の命によって19世紀に建立された壮麗な美術史美術館を訪れました。
目的は、他でもなく近代絵画史の中で最も心酔する画家マーク・ロスコの展覧会でした。

面と線だけで2〜3色の色彩をただひたすらに描き続けたマーク・ロスコの作品は、一見したところ感じる静けさのみならず、よくよく眺めてみると、猛々しさをも持ち合わせているように思えてなりません。
確か20歳の頃にパリのポンピドゥセンターだったか、ニューヨークのMOMAだったかで初めて鑑賞して以来、誰かに理解されたくとも理解されない苦悩のようなものが滲み出る彼の作品に触れる度に、息が止まりそうになります。
ロシアからユダヤ人の移民として家族とともにアメリカに渡ったマーク・ロスコヴィッツ改めマーク・ロスコは、若かりし頃こそ、様々な画風を試み、写実主義ではないものの静物画やポートレイトを描き、シュルレアリスムに興味を示しては、ピカソの真似事のようなスタイルにも挑戦しつつも、1930年代から色調やモチーフに一貫性が見受けられました。
年齢を重ねるごとに用いる色の数は少なくなり、モチーフも簡素化され、一点一点が心にずしりと重く響く作品を描くようになります。
晩年はアンディー・ウォーホールやロイ・リキテンシュタインなどのポップアートの台頭によって自身の存在価値を脅かされ、人を信用しなくなり、孤独の果てに自ら命を絶ってしまうのです。
2009年に川村美術館でのロスコ展の折に、最晩年の漆黒の世界を描いたシリーズを拝見して、胸がキリキリと締め付けられたことが今でも忘れられません。今回は最晩年の漆黒の作品はわずかのみでしたが、初期の多様な作品から、いかにして彼がマーク・ロスコらしい作品にたどりついたのか、その変遷を垣間見ることができました。

ことほどさようにウィーンの街歩きは興味が尽きませんが、思えば日本にも、素晴らしい美術館や博物館がたくさんありますね。
次はどちらの美術館を訪れようか、思案中です。

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MIKIMOTO “My Pearls, My Style” Photographer:HIRO KIMURA

LEE November, 2021 issue (SHUEISHA) Photographer:Akinori Ito

Bi-ST November, 2021 issue (Kobunsha) Photographer:Akinori Ito

Otona no Osharetecho October, 2021 issue (TAKARAJIMASHA) Photographer:Akinori Ito

HERS Spring, 2021 issue (Kobunsha) Photographer:Akinori Ito

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GLOW January, 2020 (TAKARAJIMASHA) Photographer:Akinori Ito

GLOW January, 2020 (TAKARAJIMASHA) Photographer:Akinori Ito

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Precious September, 2021 (SHOGAKUKAN) Photographer:Akinori Ito

ESSE October, 2021 (FUSOSHA) Photographer:Kayoko Asai

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