DIARY
大千穐楽

Kokuraori, a signature textile of Kokura woven by Noriko Tsuiki
5月28日の北九州における公演を持ちまして、「猟銃」の全ての公演が終了いたしました。
5年前の2011年、初舞台にしてひとり三役、そして共演者は無言のほぼひとり芝居、かつ舞台袖に一度も退くことなく、場面転換も、着替えも全て舞台上にて行われ、着物の着付けをしながら台詞を述べるという無謀なことに挑めたのは、舞台の恐ろしさなど何も知らなかったからなのでした。
その恐ろしさに気付いてしまった今、再びこの作品を持って舞台に上がることの何と苦しかったことでしょう。
日毎に身体が鋭利な刃物で削られてゆくような、そんな感覚が絶えずつきまとっていました。
毎公演、生の声をお届けする緊張感との闘いであったのと同時に、繰り返されることによる倦怠感との闘いでもありました。
舞台上で呼吸ができなくなるのではないかと思えた瞬間が何度もありましたし、頭から血の気が引いていくようなめまいを感じたこともありました。
あまりの消耗に途方に暮れ、服役囚の方が健康的で人間らしい生活を営んでいるのではないかと思ったほどで、その点については共演者のロドリーグ・プロトーさんも共感してくださり、「僕らは演劇界という黄金の牢屋につながれているんだ」と自嘲気味におっしゃっていました。
「夢は、こんな苦行とは早々におさらばして料理人になること」とも、うそぶいていましたが、ロドリーグさんが演じることを辞める気配は全くなく、全ての公演を終えて「次は、カサブランカか、リオか、ホーチミンか、世界のどこかでまた逢うだろう!」と言って去って行きました。
生身の不完全な人間が演じる舞台では、呼吸のタイミングや歩く歩幅など、毎日わずかな変化がありました。
お客様と自らの演技の一期一会に、感謝をこめて、ただひたすらに演じた日々でした。
そして、改めて呼吸の大切さ、深く息を吐き出し、そして思う存分吸い込むことができることが、どれほど尊く、ありがたいことか思い知らされました。
これまで支えてくださったスタッフの皆様、そして、劇場へお越し下さった皆様に、深く感謝申し上げます。