DIARY
Pearl Diving

Simon Fujiwara’s Exhibition at TARO NASU in Higashi Kanda
東神田の現代アートギャラリー「TARO NASU」にて開催中のサイモン・フジワラ氏による展覧会「Pearl Diving」を鑑賞して参りました。
日本人の父とイギリス人の母を持ち、ケンブリッジ大学にて建築を、フランクフルト造形美術大学にて美術を学んだ若き精鋭サイモン・フジワラ氏は、自らのパーソナルな体験に基づいた作品により、世界中で賛否のセンセーションを巻き起こしています。
今回の展示では、MIKIMOTOの真珠にまつわる作品を堪能することができました。
1893年に世界で初めて真珠の養殖に成功した御木本幸吉は、あこや貝の中に異物を入れることで、真珠の核を作り、その核の周囲に真円の美しい粒が形成されるという手法を確立しました。
サイモン・フジワラ氏は、異物を移植された真珠を一粒ずつ毎日飲みこむことで、真珠が形成される際に辿ったプロセスの再現と逆行に試みます。
カルシウムとマグネシウムが組成の多くを占める真珠は、水や酸により変性するとのこと、サイモンの胃の中で、消化された真珠は、黄色く変色したり、黒褐色になったり、溶解して変形したり、その日に口にしたものや、体調により、変化の仕方も様々なそれらが、飲みこんだ日付に従って真っ白な空間に等間隔で展示されているのです。
果たして彼がどのようにそれらを取り出したのかは、ご想像にお任せしますが、ギャラリーの入り口に掲示されたサイモンの胸部レントゲン写真には、飲みこんだパールがはっきりと投影されていました。
他にも、かつては富の象徴としてもてはやされたものの、今や時代的な流れから身に着けることをはばかられるようになって廃棄寸前となった毛皮のコートから毛を取り除き、継ぎはぎの縫い目が露わとなった皮をキャンバス状に仕上げた作品が、我々の価値観に疑問を投げかけます。
虚実が入り交じった作品を世に問うことで、鑑賞者の常識や習慣、信念そのものに揺さぶりをかけるサイモン・フジワラ氏は、私たちの想像を遥かに超えて、新たな作品を作り続けることでしょう。
時にはユーモラスに、時には皮肉混じりに、時には真摯に、社会の根底にある問題を見つめ、そして、私たちが目を逸らしがちな現実にそっと目を向けさせてくれる彼の作品をこれからも見続けたいと思います。
サイモン・フジワラ氏は東京オペラシティのアートギャラリーでも「White Day」と称する展覧会を併催中です。