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DIARY

土楽

Spending a pleasurable moment around the hearth

Spending a pleasurable moment around the hearth

新潟を皮切りに、「猟銃」の地方公演が始まり、京都より戻って参りました。
貴重なお時間を割いて劇場にお越しくださった皆様に、深く感謝申し上げます。

せっかく京都まで足を延ばしたのですから、共演のロドリーグ・プロトーさんにも日本ならではの体験をしていただきたいと思っていたところ、さるお方より山里の自然に触れてみないかとのお誘いをいただきました。

数年前にドラマ「白洲次郎」にて演じさせていただいた白洲正子さんは、辛口でユーモア溢れる随筆を通して、忘れ去られた日本の美しきものを再び世に知らしめた方でした。
日本はもとより、中国や朝鮮半島の古陶磁を収集し、それらを箱に納めて蔵にしまい込むのではなく、日常生活の中で惜しげもなく使っていらっしゃいました。

そして、その正子さんが度々訪れたという三重県は伊賀、あの服部半蔵で知られる忍者の里にて土鍋や器を焼いていらっしゃる福森雅武さんの土楽窯へお連れいただくこととなったのです。

田園の中にたたずむ古い日本家屋には、随所に福森さんが散歩の道すがら野山で選りすぐったというお花がさり気なく、しかし生き生きと飾られており、この数ヶ月、休む間もなく駆け抜けてきた心と身体が、本当に欲していたものが目の前に現れ、瞬く間に心身共にゆるむのを感じました。

福森さんは72歳、デニムパンツに白いロングスリーブのTシャツという出で立ちで迎えてくださいました。
正子さんの御著書にも書かれてはいましたが、板張りの客間には囲炉裏が据えられ、本来は白い灰が敷き詰められる部分にはお手ずからこしらえたというお米のもみ殻をいぶして炭にした燻炭(くんたん)が真っ黒に敷き詰められ、黒い五徳と黒い炭に炎の紅がなんとよく映えることでしょう。
その囲炉裏端に正子さんよろしくあぐらをかいて座ると、奥様と、三女の円さん、四女の道歩さんがお料理を運んできて下さいました。

福森さんがご自身で作られた器に、少しずつ盛られたお料理は、裏山で見つけたというワラビを炊いたものに煮穴子のあぶり、山東菜(さんとうな)のおひたしに揚げ湯葉を和えたもの、えぼ鯛にこはだを軽く酢でしめ桜の葉で香りを付けたもの、アスパラガスの豚バラ巻き、奥様が摘み取っていらした山蕗を炊いたものと、いずれも素材の味を存分に活かし、それでいてししっかりと仕事の施された美味なる品々で、全て福森さんが自ら調理をして下さったものでした。

青磁色の浅めの鉢にはチーズを忍ばせた空豆のすり流しに平貝のソテーが添えられ、ガーリックチップが香ばしい風味を与えていました。
驚きはまだまだ続き、大きな朱色の蓋付きのお椀に張られたのは、鯛の潮汁に柚の花のつぼみを吸い口にしたものでした。
お嬢さんが食事の直前に裏山で摘んできて下さった山帰来(さんきらい)の葉に、ウドの新芽、シロツメクサの花をつなぎ無しの小麦粉と井戸水だけで揚げた天ぷらは、サックサクで野趣に溢れ、忘れがたきものでした。

炭の火がいよいよ燃えさかる頃、福森さんの黒い土鍋が五徳に据えられ、熱で溶かされた牛脂と共に、飛騨牛のヒレ肉が焼かれ始めました。
表面をさっとあぶった飛騨牛が、まるごと一枚ずつ、白洲正子さんから賜ったという明朝の古染付に大胆に取り分けられ、これも福森さん特製の山椒だれとともにいただくと、お肉の塊であることを忘れるくらい、瑞々しさと、凝縮された旨味がすっとのど元を通り越し、胃袋のなかへとやさしく落ちていったのです。

お料理にはお砂糖もみりんも用いず、新鮮な旬の素材の甘みと天然塩のもつ旨み、わずかな醤油、出汁の風味だけで味わい深く、思わず顔がほころびました。

黒い小鍋に入れたモンドールチーズを炭火の熱で溶かし、白ワインを加えたものに真桑瓜(マクワウリ)を付けて食すと、メロンのようなほのかな甘みとチーズの発酵臭が重なって、極上のデザートとなりました。

「私は芸術家ではなくて、職人なんです」とおっしゃる福森さんは、美術館に飾るための作品ではなく、日常生活で人々の暮らしに馴染む器を作ることを貫いていらっしゃるのだそうです。

いつもは日本人よりも日本人らしい慎ましさとたしなみを持ち、まるで長年連れ添った夫婦のように、無言でいつまでも同じ空間にいても気を遣わせないロドリーグさんが、思いがけぬおもてなしに大変感激したようで、珍しく感情を露わにして福森さんと何度も握手を交わし、抱き合っていました。

「なんでもないということが大事なんです。無駄なことが大事なことなんです」
という福森さんに「はい」とはにかみながらも笑顔で同意していたロドリーグ・プロトーさんもまた、「なんでもないこと」を何十年も修行僧のように謙虚に繰り返し、芸に身を捧げていらした方なのです。

金曜ドラマ「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」は今夜10:00放送です。
「友達以上恋人未満、走り出した恋を真剣交際に発展させる方法」について、あの憎らしい十倉さんが舌鋒鋭くご教示くださいますゆえ、どうぞご覧くださいませ。

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GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

Photographer:浅井佳代子

Photographer:浅井佳代子

ミセス 2021年4月号(文化出版局) Photographer:浅井佳代子

Precious 2021年9月号(小学館) Photographer:伊藤彰紀

ESSE 2021年10月号(扶桑社) Photographer:浅井佳代子

ESSE 2021年10月号(扶桑社) Photographer:浅井佳代子