DIARY
DELVAUX

The bag made by DELVAUX called Le Brillant
世界最古の皮革製品ブランドであり、王室御用達としてベルギーが誇る企業であるデルヴォーのバッグは、わずか半年で色褪せてしまうトレンドではなく、いつの時代にも女性を耀かせてくれる普遍的でありながらエレガント、それでいてどこか革新的な気配を持ち合わせています。
ドラマ「ゴーストライター」でも、文壇の女王を演じるにあたり、ノーブルな魅力溢れる白いブリヨンを惜しげもなく使わせていただきました。
この度デルヴォーのコレクションに、こちらもベルギーを代表するシュルレアリスムの画家であるルネ・マグリットの絵画にインスパイアされたシリーズが限定で加わったそうで、デルヴォー社のCEOマルコ・プロブストさんと、アーティスティックディレクターのクリスティーナ・ゼラーさん主催の少人数の宴にお招きいただきました。
味覚のみならず、視覚にも強烈に訴えかけ、感情を揺さぶる料理を作品として作り続けていらっしゃるフードアーティスト諏訪綾子さんがマグリットの絵画をモチーフに作られたお料理をサーブして下さったのは、ブラックスーツに赤いネクタイ、山高帽姿のギャルソンたちで、まるでマグリットの絵画から抜け出してきたかのよう。
グラスに配した雲のような綿菓子にトマトのエッセンスを抽出したブルーの液体が注がれると、「心の琴線」と題する画の世界がそこに現れます。次に供されたのは「選択的親和力」という鳥かごに大きな卵が入った絵画にちなんだお料理で、各ゲストの前には小さな金属製の鳥かごに入ったダチョウの卵の殻が配膳されました。人間の顔ほどあろうかという殻の底には、ペースト状にしたフォアグラを茶碗蒸しのように仕立てたものと、ダチョウの卵黄をペースト状にしたものがまるで卵がそこにあるかのように配され、白トリュフが芳しく香っていました。スプーンですくっていただいてみると、濃厚かつ芳醇なそれは、瞬く間に舌の上で溶け、鼻腔を抜ける香りとともに心地よく喉を通り過ぎて行きました。
マグリットの探求していた「見慣れた物のなかに潜む神秘性」というテーマに沿って、「自然の優雅」という作品から諏訪綾子さんがイメージなさるのはリーフパイだそうで、次なる作品は葉っぱをかたどったパイの中に、お魚やワイルドライス、大豆などの詰め物をしたお料理でした。
他にも「光の帝国」や「結婚した司祭」など、一言でおいしいだとか、甘いだとか、辛いだとか、苦いなどとは言えない、複雑で示唆に富み、かつ驚きとユーモアに満ちたお料理が続き、ひとつひとつを味わいつつも想像力をかき立てられ、眠っていた記憶の扉をいくつも開かれるような感覚をおぼえました。
「これはリンゴではない」という作品に至っては、目の前に原寸大の青リンゴが置かれてはいるものの、やはりリンゴではなく、ナイフで切り込みを入れてみると、オマール海老のしんじょうにウニを添えて形成し、外側をパッションフルーツのソースで覆ったお料理でした。
全てにおいて規格外で、目新しく、神秘的なお料理の数々は、初対面の方との会話の糸口をたくさん与えてくださいました。国境を越え、時空を越えて人と人との間を取り持つ。それもまたアートの優れた側面なのかも知れません。記録に残る作品ではなく、記憶に残る作品をとはよく言われますが、この度の宴も想像を遥かに超えて、忘れ難いひとときとなりました。