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DIARY

AGNES MARTIN

Agnes Martin exhibition at the Solomon R. Guggenheim Museum in New York

Agnes Martin exhibition at the Solomon R. Guggenheim Museum in New York

訳あって、ただ今ニューヨークにおります。

こちらを訪れる度に必ずと言っていいほど立ち寄るのが彼のフランク・ロイド・ライトが設計したらせん状の回廊式美術館、グッゲンハイムです。

この度も、素晴らしい画家との出逢いをもたらしてくれました。
アグネス・マーティンはカナダ生まれの女流画家で、幾何学的な線や格子を描き続けました。
白く塗りつぶしたカンヴァスはただの白ではなくよくよく見ると、鉛筆で惹かれた横線の間に淡いグレーやブルーが浮かび上がります。
同じように見える白い正方形のカンヴァスが12枚ほど羅列された空間に足を踏み入れた瞬間、日本との時差で朦朧としかけていた意識が澄み渡り、肺の隅々まで酸素が行き渡るような平穏が訪れました。

油彩やアクリルを用いた作品たちは、いずれも繊細な筆致で描かれており、薄く引かれた絵の具は、これでもかという押しつけがましさが皆無で、鑑賞者にゆっくりと呼吸をする余地を残してくれています。
素晴らしい絵画に出逢う度、呼吸が楽になるか、あるいは呼吸が止まりそうになるのですが、アグネス・マーティンは前者でした。

作品の多くはグレートーンで描かれており、その中に時折薄いローズや黄色などの作品が混在しています。

画家本人にインタビューを試みたショートフィルムでは「私は恐れなどのネガティブな感情は描かないわ。ただ愛と美と幸福を描くのみ」と述べられています。
そうです、彼女の作品からは愛と感謝と生きる喜びがほとばしっているのです。
しかし、「絵を描いている時間は、憂鬱とは無縁になるの。悲劇は繰り返されるべきではないわ」という言葉からは、長年苦しめられたという統合失調症の影が顔を覗かせています。
たとえ作品を描くモチベーションが苦しみから発したものだったとしても、彼女が筆を握っている間、考えることをやめ、空っぽになってインスピレーションにゆだねて生まれたものには、心地よい空虚感がただよっています。

ニューメキシコ州の老人ホームで過ごしたという晩年の作品には、わずかに鮮やかな色彩への回帰が見られ、2004年に92歳でなくなる直前に再びまた美しいグレートーンに戻りますが、その過程から、全てを受容し、死さえも受け入れていることが見受けられます。
彼女が傾倒していたという道教などの東洋哲学の影響なのでしょうか。

展示されていた若い女流アーティストに向けたアドバイスの直筆メモが、芸術に身を捧げる人々に救いをもたらします。

「アーティストの生涯は、社会から断絶された自給自足の暮らしのようなものです。
最も注力すべきは、精神がインスピレーションに目覚めることです。
ただひたすらにインスピレーションに従ううちに、いつしか創作を通じてのみ自らを見出し、まさにそれが幸せなのだと気付くのです。その喜びは何ものにも代えがたきものです。
アーティストの人生は、風変わりで、人様の敷いたレールの上を行くようなものではありません。痛みを伴いつつも自らのおかれた境遇と葛藤しつづけるのです。
異端ではありますが、実のところ、それこそがインスピレーションに導かれた生きる道なのです」

日曜劇場「IQ246」は、16日21:00時よりTBSにて放送です。
ぜひご期待下さいませ。

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GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

Photographer:浅井佳代子

Photographer:浅井佳代子

ミセス 2021年4月号(文化出版局) Photographer:浅井佳代子

Precious 2021年9月号(小学館) Photographer:伊藤彰紀

ESSE 2021年10月号(扶桑社) Photographer:浅井佳代子

ESSE 2021年10月号(扶桑社) Photographer:浅井佳代子