DIARY
黒蜥蜴初日

Evocative set and lighting on stage
本日より『黒蜥蜴』が開幕いたします。
三島由紀夫の宝石のような言葉を、ルヴォーさんに導かれながら大切に研磨し、ようやく皆様にご覧に入れる日がやって参りました。
演技をする側の繊細な心を壊さぬよう、あたたかく親密な空気のなかで行われたお稽古では、動きや表現を指示されるのではなく、「このシーンでは黒蜥蜴が、明智に心を奪われたことに、怒りと不安を覚えているとしたらどうだろう?」などと問われ、自ら考える機会与えていただきました。
また、「明智に対する恋心を抱いている自分自身への苛立ちを、手下の雨宮に八つ当たりしているとしたらどうなるだろう?」とおっしゃるルヴォーさんの言葉から、台詞にこめる感情が幾重にもかさなってより深いものとなることに気付かされました。
井上芳雄さんの立て板に水のごとく発せられる台詞と美しい所作に、黒蜥蜴よろしく心を揺さぶられ、相楽樹さんの完成されたお人形ようなかわいらしさに、生クリームをつけて食べてしまいたいという衝動にかられ、朝海ひかるさんの謙虚で献身的なお芝居に、黒蜥蜴として存在することを支えられて安心感を覚え、たかお鷹さんのなりふり構わぬ守銭奴ぶりに笑わされ、成河さんの被虐的な演技に、ますます嗜虐性を喚起させられています。
花魁で言うところの禿(かむろ)のような立場で存在する朱儒たちは、コンテンポラリーダンサーの方々が演じて下さっており、黒蜥蜴に仕える者たちであるのと同時に黒蜥蜴の心のメタファーでもあり、私たちの演技に呼応するように踊る彼女たちの姿を見ていると、思わず涙を誘われます。
鍛錬されたしなやかな身体と卓越した演技力により、ルボーさんからの厚い信頼を得ているアンサンブルの皆さんも、この作品の時の流れを司る重要な役割を演じて下さっています。
そして生のバンドが三島由紀夫の世界とデヴィッド・ルヴォーワールドの架け橋となって、私たち出演者はもちろんのこと、観客の皆様を夢の世界へ誘うのです。
シンプルで洗練された美術も、レンブラントの版画のごとき美しき陰影の照明も、そして黒蜥蜴の心の有り様を託した繊細かつ大胆な衣装も、人間らしい表情を抑えたヘアメイクも、本番ギリギリまで試行錯誤し、ああでもない、こうでもないと、クリエイティブで前向きな議論が繰り返されています。
なんと幸せなことでしょう、この夢のような時間が夢のようであるために、本当にたくさんの方々が蔭ながら支えて下さっているのです。
皆様のご来場を心待ちにいたしております。