DIARY
新春

Kiyomizu temple coverd with snow
あけましておめでとうございます。
皆様におかれましては、佳き休暇をお過ごしでいらっしゃいますか?
『黒蜥蜴』のお稽古も佳境に入って参りまして、全てのシーンを本番さながらに演じる通し稽古が数日にわたり行われています。
先日ははじめて、衣装を身に着け、メイクを施した状態で、早替えの練習をしたりもしました。
デヴィッド・ルヴォーさんの演出による機知に富んだお稽古は、演劇学校に通わせていただいているかのようで、かつての演劇界で起こった貴重なエピソードの数々を披露してくださり、常に笑いが絶えません。
ある日のお稽古では、旧約聖書について興味深いお話しをしてくださいました。
16世紀あたりまでは、イギリスおよびスコットランドにおいて聖書を英語に翻訳することは許されておらず(恐らく統治者にとって一般大衆に聖書を読ませたくない不都合な理由があったのでしょう)、原文のヘブライ語からラテン語、もしくはギリシャ語に訳されたもののみ許されていたとのこと、カトリックとプロテスタントの間の争いも緊迫した状況であった17世紀当時、スコットランド王でもあり、イギリス王も兼任していたプロテスタントのジェームズ1世(6世)が初めて英語訳聖書の編纂を命じ、当時の演劇界にて隆盛を誇ったシェイクスピアにもその誉れ高き仕事が回って来たというのです。
当時、46歳で油ののっていたシェイクスピアが、旧約聖書の詩篇46篇を翻訳し、そこにわずかな痕跡を残したとのこと、欽定訳旧約聖書の頁を開いてみると、確かにルヴォーさんのおっしゃる通り、詩篇46篇の冒頭から数えて46語目に震えるという意味のshakeという言葉があり、文末から数えて46語目には、なんと槍を表すspearという言葉が刻字されていたのです。
併せて見事にShakespeare(当時のスペルではSpearはSpeareと書かれたそうです)、彼の署名が人知れずなされていたという秘話に稽古場がどよめいたのでした。
アンサンブルの皆さんの絶妙なチームワークと生バンドによる音楽が、お客様を別世界へ誘う『黒蜥蜴』の場面転換は、出演者としてではなく、観客として客席で観たかったと思うほど素晴らしく、大きな劇場に立つことを恐れていた私も、ルヴォーさんの演出と、井上芳雄さんをはじめとする素晴らしい共演者の皆さんにゆだねていれば、何とかなるとの楽観主義に変わりつつあります。
1月9日より日生劇場、2月1日からは梅田芸術劇場にて上演されます『黒蜥蜴』をぜひご高覧くださいませ。