DIARY
宇宙の創生の物語

Amazing weather in Salzburg
『シン・レッド・ライン』やカンヌ国際映画祭でのパルム・ドール受賞作『ツリー・オブ・ライフ』などでその名を馳せるテレンス・マリック監督の最新作『ボヤージュ・オブ・タイム』にて日本語版の語りを担当させていただくことになりました。
12人もの科学者たちの監修に基づき、徹底したエビデンスを携えて撮影されたこの作品は、私たちが生きている壮大なる宇宙のはじまりの物語です。
思わずため息が漏れるほどの圧倒的な映像と、わずかな語りのみで描かれる約1時間30分の作品は、輝かしい映画スターとも、真似したくなるようなファッションとも無縁ですが、忙しい日々の中で封印してしまったであろう心の扉をそっと開いてくれます。
ケイト・ブランシェットさんの語る英語版を観た際には、時に宇宙をたゆたい、また時に懐深き大地に抱かれ、あるいは深海の静けさに身を委ねるかのようでした。
拙い言葉で表現することは大変もどかしいのですが、魂を優しくマッサージされているような感覚とでも申しましょうか。
生まれてから誰もが必ず抱く「人はなぜ生まれて来たのだろうか?なぜこの宇宙は存在しているのだろうか?」といった疑問の答えに気付かせてくれる、そんな作品です。
先日行われた録音の際には、立ち会ってくださったプロデューサーのソフォクレス・タシオリスさんが、飽きるほど観たであろう映像を前に、涙ぐんでいらっしゃいました。
実は、私も物語の佳境の場面で自ら語りながら、その映像の美しさとこの作品の慈愛に満ちたメッセージに心動かされ、はからずも声が震えてしまいました。
テロ、戦争、貧困、饑餓、災害、疾病と、様々な煩いが絶えず私たち人間を苦しめますが、この作品を観ていると、そうしたことすら、自然の営みの一部であり、すべては移ろいゆくものなのだと観念させられるのです。
世の無常を嘆いても仕方がないのだと、抗いようのないものに降伏宣言をするかのようなこの作品は、決して絶望を描いているのではなく、あたたかい希望に包まれています。
時間が許すなら、毎日でも繰り返し映画館に通いたいと思えたほどの美しい作品です。
ぜひ劇場の暗がりのなかで、何も考えず、ゆっくりご覧いただけましたら嬉しいです。