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DIARY

初秋

A day on the mountain

この2ヶ月間、ザルツブルクにて自然に親しみ、音楽に耳を傾ける日々でした。

ご存知かもしれませんが、この界隈は湖水地方と言われておりまして、アルプスの山々に囲まれたこの地には底まで透けて見えるほど美しい湖がいくつも点在しています。風のない朝には、一寸法師のようにサップボードに乗って湖面をスイスイと進んでみたり、雨上がりには山歩きをする道すがら苔やシダを眺めてみたり、曇りの日には草むしりに励み、快晴の午後には日陰にて来たるドラマの撮影のための台本を読んだり、このところ最も頭を抱えているドイツ語の勉強に勤しんだり………。

挑戦しつづける人生でありたいと、40歳を越えて自動車免許を取得したり、こちらオーストリアでの暮らしを始めたものの、この年齢で新たな言語を学ぶことは、やはりそう簡単には参りませんで、四苦八苦しております。
「こんな複雑な文法をドイツ語に組み込んだ首謀者はどなた様?」と恨み節を言いたくなるほど難しく、脳味噌がオーバーヒートしそうになっては、テキストを見て見ぬふりをして数日間過ごしたりしているのです。

絶妙な塩梅のイクラや、オーガニックの海老を取り扱うお魚屋さんに、熟成肉を扱うお肉屋さん、希少なシュタインピルツというキノコがお目見えする市場、羊のフレッシュチーズを販売する牧場、古代小麦エンマーやスペルトを扱う製粉所など、安全で美味しい食材を求めての買い物は、ザルツブルクの端から端までドライブする必要があり、これにオーガニックのココナツヨーグルトや豆乳などの買い出しを加えると一日がかりの仕事になりますが、朝のフルーツも、お昼の軽食も、午後のお茶も、夕食も、屋外で山の澄んだ空気と共にいただくと買い物の煩雑さなど忘れてしまいます。

日々の暮らしを営むだけで、瞬く間に時間は過ぎて行きますが、その一方で旧市街地の祝祭大劇場にて行われている世界最高峰とも言われる音楽と演劇の祭典「ザルツブルク音楽祭」も欠かせません。

ダニエル・バレンボイムの指揮によるマーラーの「交響曲5番」や、大好きなソプラノ歌手アスミック・グレゴリアンの歌うショスタコーヴィチの「交響曲14番」など、ウィーンフィルの滑らかな調べに耳を澄ませたかと思えば、本日は主席指揮者にキリル・ペトレンコを迎えた新体制のベルリンフィルと異色のヴァイオリニスト、パトリシア・コパチンスカヤによるシェーンベルクの「ヴァイオリン協奏曲」に、チャイコフスキーの「交響曲5番」のリハーサルをこっそり拝聴して参りました。

言わずと知れたマーラーの5番やチャイコフスキーの5番は美しく耳障りの良い音楽ですが、ショスタコーヴィチの14番とシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲は少々難解でした。
しかし、調性を排した難しい音楽も、演奏者が音楽に没入し、身体に染みこんだ音とリズムを自らの言葉を語るかのように放ってくれると、聴いているこちら側まで、まるでその難解な音楽を理解したような気になれるほど楽しめるものなのですね。
私は音楽家ではないので、詳細はよくわかりませんが、まさにアスミック・グレゴリアンとパトリシア・コパチンスカヤには、近現代の音楽を理解する卓越した感性と、それを表現するだけの技術が備わっており、音楽の語る情景が見えていたらこそ、こちらにもその情景が自ずと伝わって来たのでしょう。
もちろんソリストを陰に日向に支えるオーケストラの演奏もそれぞれ素晴らしいものでした。

演じる際にも情景を伝えられる人間でありたいと、改めて心に誓った次第です。

間もなく始まるドラマ「ハル〜総合商社の女」の撮影に向けて、こうして心に栄養を注ぐ日々を終え、そろそろ日本へ帰る予定です。
初秋とは言え、まだまだ耐え難き暑さが続くこの頃にて、皆様どうぞお身体に障りませんように。

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GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

Photographer:浅井佳代子

Photographer:浅井佳代子

ミセス 2021年4月号(文化出版局) Photographer:浅井佳代子

Precious 2021年9月号(小学館) Photographer:伊藤彰紀

ESSE 2021年10月号(扶桑社) Photographer:浅井佳代子

ESSE 2021年10月号(扶桑社) Photographer:浅井佳代子