あの家に暮らす四人の女

Embroidery stitched by Wakako Horai

三浦しをんさん原作のスペシャルドラマ「あの家に暮らす四人の女」にて、古い洋館を舞台に母鶴代と友人の雪乃、そして雪乃の同僚の多恵美と風変わりな同居を続ける主人公の刺繍作家、牧田佐知を演じました。

かつてドラマ「模倣犯」でもお世話になったプロデューサーの中川順平さん、黒澤淳さん、雫石瑞穂さんよりお声がけ頂き、深川栄洋監督の描くおとぎ話のようにノスタルジックでありながら、滑稽でリアルな人間模様が垣間見える世界の住人として、一針入魂の日々を送りました。

そもそもマフラーですら10㎝以上編めたことがないほど移り気な質でして、手先は比較的器用な方だ自負しておりますが、お裁縫や手芸の類いは苦手と申しますか、コツコツと地道に手仕事をするというこらえ性が全く備わっておりません。だからこそ、染織家や器の作家、そして刺繍作家など、美しいものをこの世に送り出すために手を動かし、時間を費やす方々を尊敬して止まないのです。

この度も、京都にお住まいの刺繍作家蓬莱和歌子さんの手ほどきを受け、一針一針垂直に刺すという作業を練習したのですが、想い描く完成図に仕上がるまでのもどかしさに身もだえしておりました。
蓬莱和歌子さんの刺繍の美しさはその構図やステッチの美しさは言うまでもなく、刺繍を施す布や糸の色の選択が秀逸で、大人の女性に相応しいスモーキーで柔らかな色調が特徴です。

さて、肝心のドラマですが、この度も素晴らしい共演者に恵まれました。
武蔵野のお嬢様とも言える世間知らずで身勝手な母鶴代を稀代のコメディエンヌ宮本信子さんが軽妙かつ繊細に演じて下さり、恋や愛などという幻想を捨て去り、ひたすら会社と洋館との往復に励み、ヨガに心の安寧を見出す友人雪乃を永作博美さんがクールに、そしてコミカルに演じて下さいました。そして、雪乃の同僚でストーカー化したダメ男から逃れるために転がり込んできた多恵美をチャーミングに演じて下さったのは吉岡里帆さんでした。
主人公の佐知が産まれる前から同じ敷地内の離れに暮らしている昔気質の作男を、舞踏で世界中を魅了する田中泯さんが無骨に演じて下さり、恋もおしゃれも放棄して刺繍の締め切りに追われる佐知が想いを寄せる内装工事の職人役を要潤さんが真っ直ぐに演じて下さいました。

撮影中にも皆さんのお芝居がそれぞれ素晴らしく、小気味よい台詞とリアクションに観客になったような気持ちで見入っておりましたが、深川監督の編集を介した完成作品を観ると、想像以上に愉快でバカバカしく、それでいて心温まる物語となっており、自分が出演しているにもかかわらず心底楽しめました。

原作では「恋というのは、理解ではなく勝手な思い込みのことですよ。愛というのは、思い込みが打ち砕かれたあと、理解し合えぬ相手とそれでも関係を持続する根性と諦めのことですよ」という雪乃の台詞が印象的でしたが、それでも佐知は「私はやっぱり、理解しあいたい。男のひとにかぎったことじゃないけれど」と夢を抱いています。
「夜が長いからこそ、光を、理解を、愛を、飽かずもとめることができるのかもしれない。だとしたら、ひとはさびしく愛おしい魂を抱えた生き物だ」とも、続く地の文にて述べられています。

先進国の多くでは家父長制などという古い形は忘れ去られつつあり、家族の形が多様性を帯びていることは誰もが知るところかと思います。
4人の女たち+老人の奇妙な共同生活も、ある意味では家族のようなものだと言えるでしょう。
いずれも何かが欠けたおかしな面々が集う大人のためのファンタジー「あの家に暮らす4人の女」を秋の夜長のお供にしていただけましたら幸いです。

ドラマスペシャル「あの家に暮らす四人の女」は、9月30日月曜日夜9:00テレビ東京にて放送です。

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