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DIARY

閉店

The studio set desined as a Japanese restaurant called Tokura

The studio set desined as a Japanese restaurant called, “Tokura”

放送に先駆けて11月より撮影していた連続ドラマ「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです。」の撮影がクランクアップを迎えました。

美容皮膚科を経営する女医で、誰もが羨むような暮らしを手に入れ、何不自由なく生きているつもりでも、久しぶりに訪れた同窓会で未だ独身であることを告げるなり、同級生たちから哀れみの眼差しを向けられた主人公の橘みやびは、ひょっとしてこれまでの生き方が間違っていたのではないかと、一抹の不安を覚えます。

女の価値はクリスマスケーキと同じだなどと誰がはじめに言ったのでしょうか。
12月25日をピークに坂道を転げ落ちるかのように価値が下落して、タイムセールの果てに廃棄されるクリスマスケーキのごとく、いずれ誰にも見向きもされなくなるとは、何と哀しいことでしょう。

歯に衣着せぬ独身女性の集いでたまたま訪れた、大人の隠れ家的な和風割烹にて、藤木直人さん演じる店主の十倉誠司より「美人、キャリア、アラフォーという三重苦を背負った恋愛弱者である」との真実をつきつけられる主人公のみやびは、売られた喧嘩を買って出て、慌てて婚活に勤しむも惨敗。
ついに藁をもつかむ気持ちで、十倉に恋愛指南を仰ぎます。
「プレ更年期のうぬぼれ女ドクター」などと、強烈になじられ、罵倒されながらも、結婚というゴールを目指して奮闘するみやびを演じた4ヶ月間が昨夜で終わりを迎え、いよいよ「とくら」も閉店となりました。

「Nのために」を拝見して以来、いつかご一緒させていただきたいと願っていたプロデューサーの新井順子さんと、美しい映像と、丁寧な心理描写で視聴者を虜にしていらした監督の塚原あゆ子さんが、新たな扉を開く機会を与えて下さいました。
心に響く重めの作品を作っていらしたお二人ですが、この度は、徹底的な男目線で書かれた水野敬也さんの恋愛論「スパルタ婚活塾」を原案に、脚本家の金子ありささんによる軽妙で愉快な物語と台詞が加わって、笑えて、ちょっぴり泣けて、そして使えるテクニック満載の愉しいドラマとなりました。

金子ありささん自ら書かれた企画書をいただいた際、その日のうちに移動中の車で目を通すも、あまりの愉快さに声を上げて抱腹絶倒したことは決して忘れません。
あの企画書で恋に落ちたこの作品は、実際に撮影が始まってからも、飽きっぽい私の心を捕らえて決して離さず、最後までドキドキさせてくれました。

極寒の撮影にもかかわらず、笑いの絶えない現場にしてくださったスタッフ、キャストの皆様に、改めて感謝申し上げます。

「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです。」は4月より毎週金曜夜10時放送予定です。
是非、ご覧下さいませ。

Mouton Rothschild meets Lee Ufan

Mouton Rothschild's 2013 label design by Lee Ufan

Mouton Rothschild’s 2013 label design by Lee Ufan

フランスが世界に誇る五大シャトーのひとつに数えられるムートン・ロットシルトの2013年のヴィンテージがようやく市場にお目見えしたそうです。

20代の多くをパリとの往復に費やしていた頃に、手頃なワインでも十分に美味しいことを友人たちから教わったため、美味しいワインと、そうでないワインの違いくらいはもちろんわかりますが、美味しいワインと美味しいワインの違いを理解するにはまだ至らぬ無粋な私ですが、この度の発売にはことのほか興奮しています。
1945年以来、パブロ・ピカソやジャン・コクトー、アンディー・ウォーホルなどと、毎年異なるアーティストにラベルの画を依頼することで、アートに多大なる貢献をして来たシャトーのラベルとしてこの数年心酔している現代アーティスト李禹煥さんの絵画が貼付されているのですから。
中国にはかつて牧谿が存在し、日本には長谷川等伯が存在し、ロシアではマーク・ロスコが生まれたように、隣国の韓国では李禹煥さんが生まれました。私にとって、その四者に優劣は付けがたく、等しく価値のある画家であると思っています。

ポイヤックのシャトーにて、大切に育まれてきたぶどうの木々ですが、2013年は受難の年であったと言います。嵐に見舞われ、他のシャトーも含めて半分以上のぶどうが残念ながら期を待たずしてその果実を失ってしまったとのこと、幸い収穫期ギリギリになって天候に恵まれ、カベルネ・ソービニヨンがふくよかに熟してくれたため、農作業に従事する方々が9日ほどで慌てて摘み取り、樽詰めに辛うじて間に合わせたようですが、例年に比べて市場に出回る数が著しく少ないヴィンテージとなり、すでに争奪戦が予想されます。

混合率はカヴェルネソーヴィニオンが89%、メルローが7%、カベルネフランが4%。ぶどうの収穫量は残念ながら記録的に少なかったものの、質は誇れるものであったそうで、驚くべきことに、通常は5年から10年をかけてボトルの中で熟成し、飲み頃を迎えるワインですが、2013年のボトルはすでにあとわずかで口に含んでもよい頃合いになっているとのお話しを伺いました。

実は、半年ほど前に、フランスよりバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社の会長であるフィリップ・セレイ・ド・ロスチャイルド男爵が日本にお見えになった際に、「フランス語か英語を話せる方を伴って」という友人のリクエストのもと、お食事会にお招きいただきましたが、果たしてどなたにお声がけするか、考えあぐねておりましたところ、ふとヴェルサイユ宮殿での個展をなさったばかりの李禹煥さんはいかがだろうかと思いつきました。パリのアトリエを拠点にヨーロッパにおいでになることも多い李禹煥さんですが、幸運にもお電話に出てくださいました。
そして、なんと「実は、先日2013年のラベルに採用されることが決まったばかりなんです」とおっしゃるではありませんか。

この度のラベルには、李禹煥さんのライフワークとも言える、石と顔料を混ぜ合わせて編み出した画材を、幅広の刷毛でキャンバスに塗っただけの、深海の静けさのような、宇宙の果てにいるかのような孤独すら感じさせる照応シリーズを、ボルドーカラーにて表した唯一無二の作品がプリントされています。

日本のお茶席では、お抹茶としつらい、そして器が人と人とを繋ぐ大切な役割を果たして来ましたが、芳醇なワインと美しいアートもまた、人と人とを繋ぐ架け橋となるのですね。

Pearl Diving

Simon Fujiwara’s Exhibition at TARO NASU in Higashi Kanda

Simon Fujiwara’s Exhibition at TARO NASU in Higashi Kanda

東神田の現代アートギャラリー「TARO NASU」にて開催中のサイモン・フジワラ氏による展覧会「Pearl Diving」を鑑賞して参りました。

日本人の父とイギリス人の母を持ち、ケンブリッジ大学にて建築を、フランクフルト造形美術大学にて美術を学んだ若き精鋭サイモン・フジワラ氏は、自らのパーソナルな体験に基づいた作品により、世界中で賛否のセンセーションを巻き起こしています。

今回の展示では、MIKIMOTOの真珠にまつわる作品を堪能することができました。
1893年に世界で初めて真珠の養殖に成功した御木本幸吉は、あこや貝の中に異物を入れることで、真珠の核を作り、その核の周囲に真円の美しい粒が形成されるという手法を確立しました。
サイモン・フジワラ氏は、異物を移植された真珠を一粒ずつ毎日飲みこむことで、真珠が形成される際に辿ったプロセスの再現と逆行に試みます。
カルシウムとマグネシウムが組成の多くを占める真珠は、水や酸により変性するとのこと、サイモンの胃の中で、消化された真珠は、黄色く変色したり、黒褐色になったり、溶解して変形したり、その日に口にしたものや、体調により、変化の仕方も様々なそれらが、飲みこんだ日付に従って真っ白な空間に等間隔で展示されているのです。

果たして彼がどのようにそれらを取り出したのかは、ご想像にお任せしますが、ギャラリーの入り口に掲示されたサイモンの胸部レントゲン写真には、飲みこんだパールがはっきりと投影されていました。

他にも、かつては富の象徴としてもてはやされたものの、今や時代的な流れから身に着けることをはばかられるようになって廃棄寸前となった毛皮のコートから毛を取り除き、継ぎはぎの縫い目が露わとなった皮をキャンバス状に仕上げた作品が、我々の価値観に疑問を投げかけます。

虚実が入り交じった作品を世に問うことで、鑑賞者の常識や習慣、信念そのものに揺さぶりをかけるサイモン・フジワラ氏は、私たちの想像を遥かに超えて、新たな作品を作り続けることでしょう。
時にはユーモラスに、時には皮肉混じりに、時には真摯に、社会の根底にある問題を見つめ、そして、私たちが目を逸らしがちな現実にそっと目を向けさせてくれる彼の作品をこれからも見続けたいと思います。

サイモン・フジワラ氏は東京オペラシティのアートギャラリーでも「White Day」と称する展覧会を併催中です。

不惑

Stirling Castle in Stirling of Scotland

Stirling Castle in Stirling of Scotland

昨日で40歳になりました。
ありがたいことに、撮影中のドラマ「私、結婚できないんじゃなくて、しないんです。」の現場にて、スタッフ、キャストの皆様があたたかく、愉快にお祝いしてくださいました。

ようやく憧れだった40代に足を踏み入れることができたのです。正直なところ、これまでの道のりは、ずいぶんと長く感じられました。
触れたいと思うもの、訪れてみたい場所、愉しいと思えることも、全て大人の特権のようなもので、若い時分にははるか遠くに感じられて、追いつこうと必死で背伸びをしていたように思います。
ようやく本当に好きなものや、好きなことを誰の目もはばかることなく好きだと言える年齢になれた安堵感と、まだまだ目指すべきは彼方にあるという自戒の念が混在しています。

不惑とは言え、惑いながら生きるのでしょうけれど、それでも、以前にも増して愉しいことが訪れる予感がしてなりません。
皆様にも幸多からんことを、心よりお祈り申し上げます。

松林図屏風

Shōrin-zu byōbu painted by Tōhaku Hasegawa exhibited at Tokyo National Museum in Ueno

Shōrin-zu byōbu painted by Tōhaku Hasegawa exhibited at Tokyo National Museum in Ueno

東京国立博物館にて、敬愛する長谷川等伯の「松林図屏風」を拝見して参りました。

同じ時代に名を馳せた狩野派の最大のライバルとも言われ、雪舟五代を自称していた等伯は、能登の七尾で生まれ、職を求めて上洛し、時の権力者であった豊臣秀吉や千利休との交流などを通じて、日本絵画史にその名を深く刻みつけました。

遠目から六曲一双の屏風を眺めると、鈍色の空と、茫洋たる防砂松林が延々と続く能登の日本海沿岸を想起させられます。
生まれ故郷の原風景を想って描いたのでしょうか。あるいは、愛息久蔵を失った哀しみをたたえているのでしょうか。
離れて見ると柔らかく、繊細な筆致に見えますが、ひとたび近づいてみると荒々しさと共に、緻密な計算も見受けられます。
それでいてやはり、心に静けさがもたらされるのです。

こちらの作品を巡っては諸説あり、下絵なのではないかという考えもあるそうですが、東京国立博物館の学芸員でいらっしゃる松嶋雅人さん曰く「それにしては、当時絵の具よりも貴重だった良質な墨を惜しむことなく使っているんですね。ほらあんなに艶のあるいい墨を使っている。私は本画だったと思っています」とのこと。
更には、印は等伯の伯という字を誤っており、画は確かに等伯によるものだけれど、印については、等伯の工房に近い人間が後から押したものだというのが有力な説として伝わっているそうです。

この作品が本画であっても、下絵であっても、等伯によるものであっても、そうでなくとも、一向にかまいません。
日本画の極みとも言える、墨の濃淡のみで、これほどまでに控えめでありながら、圧倒的な印象を残すこの作品が大好きです。

「松林図屏風」の公開は1月17日まで。

謹賀新年

“Chabako” designed and made by Akito Akagi, exhibited at Tokyo in Nishiazabu

“Chabako” designed and made by Akito Akagi, exhibited at Tokyo in Nishiazabu.

新年あけましておめでとうございます。
例年通り快晴の東京は人の気配も少なく、空気が澄んでいて、過ごしやすいです。

昨日は除夜釜と言って、一年を締めくくるお茶会にお招きいただいていたのですが、数字に弱く間抜けな私は、てっきり夜の11時からだと勘違いをしておりまして、髪結いさんや、昼寝がてらのマッサージ、そして帰りの足などを完璧に手配したつもりでいたものの、なんとお昼の11時から会は始まっていたとのこと、気付いた頃には時すでに遅し、お開きになった後でした。

お茶会の開催に当たっては、お客様へのご案内に始まり、お道具選びにお料理やお菓子の手配、当日のお掃除にしつらえなど、微に入り細に入りお客様を喜ばせるための工夫をしてらっしゃるでしょうから、人数が狂うとご迷惑になるはずなのですが、さすがは懐の大きなご亭主様、笑ってお許しくださいました。

今年こそ人様にご迷惑をおかけしないよう反省しつつ、挑戦と失敗を重ねて成長したいと思います。

来たる一年が、皆様にとって更に充実したものとなりますように、心よりお祈り申し上げます。

松樹千年翠

The pine tree potted in to Imari Porcelain by Hanamasa in Kyoto and the lacquer tray hollowed out and painted by Syuzo Shingu.

The pine tree planted in an Imari Porcelain cup by Hanamasa of Kyoto, with a lacquer tray carved and painted by Syuzo Shingu.

4月より放送予定の連続ドラマ「私、結婚できないんじゃなくて、しないんです。」の撮影にて、奔走する日々です。
孤独に年を重ねるか、あるいは素敵なパートナーと巡り会えるのか、40代を目前に控えて焦る女心を、強烈な毒とわずかなエロスを込めてリアルに、そして痛快に描くラブコメディで私が演じるのは美容皮膚科を経営する女医で、友人達とたまたま訪れた和風割烹の、傲慢で気難し屋で、毒舌の店主より恋愛指南を受ける主人公です。

毎日朝から晩までの撮影はさずがに身に堪えますが、京都の生花店「花政」さんにお勤めの福山重文さんと、古今の器や美術を扱う「昴-KYOTO-」の永松仁美さんより、古伊万里のそば猪口に植え付けられた松をお贈りいただき、幸せな気持ちになりました。大好きな白磁のお猪口は幼少時より骨董に慣れ親しんでいらした仁美さんによるセレクトで、彼女の信頼する福山さんが、愛情をこめて植え付けをして下さったそれを、新宮州三さんの刳りのお盆に載せて玄関に飾らせていただきました。
お陰様で清々しい気持ちで新年を迎えることができそうです。

忙しい時にこそ、季節の移ろいに目を配り、植物を愛でる時間を大切にしたいと改めて思います。
東京では「花長」さんが、京都からは「花政」さんが、いつも私のささやかな幸せを支えて下さっています。

どうぞ皆様も佳きお年をお迎えくださいますよう。

Col Pierrot

Col Pierrot Pop-Up Store at ISETAN

Col Pierrot Pop-Up Store at ISETAN

22歳の折にパリで出逢って以来、大切にして来た友人がデザインするブランド「Lisiere リジエール」より、プライベートコレクションとしての新たなブランド「Col Pierrot コルピエロ」がデビューしました。

パリのオートクチュール学校にて、パターンナーとして立体での服作りを学び、成績優秀な生徒のみが許された老舗メゾンにおける研修で白羽の矢が当たり、シャネル、そしてバレンシアガといったファッションが好きな方なら誰でも憧れるメゾンの裏方として、お局さんたちと机を並べて仕事に携わった後、ラコステやエルメスのデザイナーを歴任し、本年度は日本のユニクロとのコラボレートも記憶に新しい、クリストフ・ルメールのもとでキャリアを開始した彼女は、帰国後に生地の耳を意味する自らのブランド「Lisiere」を立ち上げました。

職人気質な彼女の作品はシンプルでありながら、上質で、女性のシルエットを最大限に美しく見せてくれるため、骨董通りにお店を構える「L’Appartement」や「Deuxieme Classe MUSE de Deuxieme Classe」にて大変な人気を誇り、完売続出中とのことです。

これまで、映画、ドラマ、CM、そして舞台挨拶や記者発表など、美しく装いたいハレの日も、友人との会食や舞台の稽古中などのケの日も、いつも「Lisiere」のワードローブに助けられて来ました。

先日「伊勢丹×伊藤園」のイベントにて身に着けたミニドレスも、「FOUJITA」の試写や初日舞台挨拶にて袖を通した衣装も、4月に再演することとなった「猟銃」のパンフレットにて纏ったキャミソールドレスも、全て彼女のデザインによるものでした。

そしてこのたび、「ピエロの襟」を意味する新たなブランド「Col Pierrot」では、限定商品や、一点物など、量産出来ない手仕事に近い作品を少しずつ発表して行くそうです。
嬉しいことに本日より、伊勢丹新宿本店4階にて3週間だけのポップアップストアが開催となりました。

美脚に見えるパンツや、腕が細く見えるジャケット、わずか2点限定の上質なスエードのライダースジャケット、女性らしいシルエットのワンピースにスエードのフリンジバッグなど、私もついつい大人買いしてしまいました。

「Col Pierrot」のポップアップストアは、12月25日まで。
数量限定のため、完売の際には悪しからず、どうぞご了承くださいませ。

DELVAUX

The bag made by DELVAUX called Le Brillant

The bag made by DELVAUX called Le Brillant

世界最古の皮革製品ブランドであり、王室御用達としてベルギーが誇る企業であるデルヴォーのバッグは、わずか半年で色褪せてしまうトレンドではなく、いつの時代にも女性を耀かせてくれる普遍的でありながらエレガント、それでいてどこか革新的な気配を持ち合わせています。

ドラマ「ゴーストライター」でも、文壇の女王を演じるにあたり、ノーブルな魅力溢れる白いブリヨンを惜しげもなく使わせていただきました。

この度デルヴォーのコレクションに、こちらもベルギーを代表するシュルレアリスムの画家であるルネ・マグリットの絵画にインスパイアされたシリーズが限定で加わったそうで、デルヴォー社のCEOマルコ・プロブストさんと、アーティスティックディレクターのクリスティーナ・ゼラーさん主催の少人数の宴にお招きいただきました。

味覚のみならず、視覚にも強烈に訴えかけ、感情を揺さぶる料理を作品として作り続けていらっしゃるフードアーティスト諏訪綾子さんがマグリットの絵画をモチーフに作られたお料理をサーブして下さったのは、ブラックスーツに赤いネクタイ、山高帽姿のギャルソンたちで、まるでマグリットの絵画から抜け出してきたかのよう。

グラスに配した雲のような綿菓子にトマトのエッセンスを抽出したブルーの液体が注がれると、「心の琴線」と題する画の世界がそこに現れます。次に供されたのは「選択的親和力」という鳥かごに大きな卵が入った絵画にちなんだお料理で、各ゲストの前には小さな金属製の鳥かごに入ったダチョウの卵の殻が配膳されました。人間の顔ほどあろうかという殻の底には、ペースト状にしたフォアグラを茶碗蒸しのように仕立てたものと、ダチョウの卵黄をペースト状にしたものがまるで卵がそこにあるかのように配され、白トリュフが芳しく香っていました。スプーンですくっていただいてみると、濃厚かつ芳醇なそれは、瞬く間に舌の上で溶け、鼻腔を抜ける香りとともに心地よく喉を通り過ぎて行きました。

マグリットの探求していた「見慣れた物のなかに潜む神秘性」というテーマに沿って、「自然の優雅」という作品から諏訪綾子さんがイメージなさるのはリーフパイだそうで、次なる作品は葉っぱをかたどったパイの中に、お魚やワイルドライス、大豆などの詰め物をしたお料理でした。

他にも「光の帝国」や「結婚した司祭」など、一言でおいしいだとか、甘いだとか、辛いだとか、苦いなどとは言えない、複雑で示唆に富み、かつ驚きとユーモアに満ちたお料理が続き、ひとつひとつを味わいつつも想像力をかき立てられ、眠っていた記憶の扉をいくつも開かれるような感覚をおぼえました。

「これはリンゴではない」という作品に至っては、目の前に原寸大の青リンゴが置かれてはいるものの、やはりリンゴではなく、ナイフで切り込みを入れてみると、オマール海老のしんじょうにウニを添えて形成し、外側をパッションフルーツのソースで覆ったお料理でした。

全てにおいて規格外で、目新しく、神秘的なお料理の数々は、初対面の方との会話の糸口をたくさん与えてくださいました。国境を越え、時空を越えて人と人との間を取り持つ。それもまたアートの優れた側面なのかも知れません。記録に残る作品ではなく、記憶に残る作品をとはよく言われますが、この度の宴も想像を遥かに超えて、忘れ難いひとときとなりました。

世にも奇妙な物語

La Maison Champs Elysées designed by MaisonMartin Margiela

La Maison Champs Elysées designed by Maison Martin Margiela in Paris

「カオス」という映画以来、15年ぶりに中田秀夫監督とお仕事をご一緒させていただきました。

「女優霊」で頭角を現し、「リング」にてその地位を不動のものとし、ハリウッドにもその名を轟かせた監督は、本来ホラー映画ではなく恋愛映画を撮りたいのだとおっしゃいますが、多くの方は中田監督に巧みな恐怖表現を求めていらっしゃることでしょう。

この度の作品は「事故物件」と申しまして、タイトルからご想像の通り不穏な空気の漂う物語で、明日21:00フジテレビ系にて放送の「世にも奇妙な物語25周年記念!秋の2週連続SP〜映画監督編〜」に連ねています。

実は、私の人生も奇妙なことの連続で、どなたかのことをふと想うと、翌日にその方にばったり出逢ったり、冗談で何気なく言ったことが余りにも真実を言い当てていて周囲が驚いたりということが何度もあります。

9月にパリを訪れた際も、公開中の映画「FOUJITA」にてお世話になったプロデューサーの女性と食事をすべく電話をかけてみたところ、奇遇にも映画祭で訪れていた中田秀夫監督のアテンドをしていらっしゃるとのこと、15年ものご無沙汰の後、久々に滞在先のホテルで昼食を共にすることになったのでした。「世にも奇妙な物語」への出演が決まったのは、そのわずか数日前のことでしたので、特に申し合わせた訳でもなく、たまたま同じ街に居合わせたことにただならぬご縁を感じました。

それから間もなくしてあのような凄惨なテロが起ころうとは……。
幸いあちらにいる友人たちは無事でした。しかし、大切な命が奪われたことに変わりは無く、誰もが信じていた当たり前の日常が揺らぐ出来事に言葉もありません。

どうか皆様の日常が平穏でありますように。

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GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

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Photographer:浅井佳代子

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